アニメーション作成に役立つ物理・数学入門

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はじめに

こんにちは。モノリスソフト テクニカルアーティストの本部です。

アニメーターの皆さん、物理や数学って好きでしょうか?もちろん「大好き!得意!」という方もおられると思いますが、数式や記号が多く、苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか。
ですが、現実での物体の動き方やその法則を知っておくのは、アニメーションを作成するうえで非常に役に立つと思います。

私自身、「テクニカルアーティスト」と名乗っていますが、実はモノリスソフトにはアニメーターとして採用され、ちょっとした物理や数学の知識をアニメーション作成時に活用してきました。
今回、そんな私が、今までのアニメーター制作で役に立つと感じたり、よく使う知識を纏めてみました。

どれも高校までで学ぶ基本的な内容で、それほど難しいものではありません。

また具体的にアニメーションに活用する方法なども紹介し、なるべくなじみやすい内容にしようと思います。

落下

「下に落ちる」と書いて落下です。地球と物体が引き合って近づいていくことを指します。

物が落ちる速度

物体が落下する際、その落下速度は1秒ごとに約9.8 m/sずつ加速していきます。
※空気抵抗を無視した場合

落下時間 速度(秒速) 速度(時速)
0.0秒 0.0 m/s 0.0 km/h
1.0秒 9.8 m/s 35.28 km/h
2.0秒 19.6 m/s 70.56 km/h
3.0秒 29.4 m/s 105.84 km/h
4.0秒 39.2 m/s 141.12 km/h
...
3600.0秒 35,280.0 m/s 127,008 km/h

3600秒後(1時間後)には、127,008 km/h(マッハ106)という驚異的な速度になりますが、実際は空気により減速されます。
また、加速する量を加速度(単位:m/s2)と呼びます。

物が落ちる速度は同じ

空気抵抗を無視した場合、地球上では重いものでも軽いものでも同じ加速度(9.8m/s2)で落ちます。
「ボーリング玉と羽毛を同じ高さから落とした場合、地面に着くのは同時である」と言われても最初は納得いかないかもしれませんが、ガリレオによるピサの斜塔での落下実験が有名です。動画サイトで"free fall experiment in vacuum"などで検索してみてください。

巨大なものがゆっくり見える理由

映画やアニメなどで大きな物体(コロニーや巨大ロボなど)が落ちる際、ゆっくり落ちているように描かれていることがあると思います。
これらはある程度の誇張が入っていることはありますが完全な嘘ではなく、「物体の重さに関わらず物が落下する速度は同じ」という法則が関係しています。

落下速度が同じであれば、物体が大きいほどサイズに対する相対的な速度が遅く感じられるためです。

Mayaで自由落下を再現してみる

実際にMayaで自由落下を表現してみます。
以下の公式で求められます。

\( h = \frac{1}{2}gt^2 \) h 落下距離
g 重力加速度
t 経過時間

文章で言うと「経過時間を二乗したものに重力加速度を掛けて、2で割る(0.5を掛ける)」と、落下距離が求められます。

これをMELに書き直すと以下の様になります。
※ballというポリゴンの球モデルをシーン上に作成しています。

$unit = 100; //単位変換用 今回のシーンは1unit=1.0cmなので、100を入力
$gravity = -9.8; //重力加速度
ball.translateY = (0.5 * $gravity * pow(time,2)) * $unit;

MayaでExpressionを作成し、初期位置を10の高さに再生してみます。

tech_14_1.gif

それっぽいですね!それっぽいではなく、かなり正確な自由落下になっているはずです!

前述したとおり、「物が落ちる速度は同じ」なので空気抵抗が無視できるくらいの物体であれば、同じエクスプレッションを使用できます。

NOTE:

プリント用紙や羽などは空気抵抗が無視できず、そもそも形状的に舞うように落ちていくため、このエクスプレッションだと不自然になります。

卓球の球なども、まっすぐは落ちますが空気抵抗の影響で落下速度が落ちるため、恐らく不自然に見えてしまうと思います。

合力

向きや大きさの違う二つの力の合計と同じ向きと大きさを持つ力を「合力」といいます。

合力の求め方

合力は、もとの2つの力で平行四辺形を作ったときの、その対角線になります。

tech_14_02.png

壁を押す反作用との合力をMaya上で視覚化してみる

体重60kgのキャラクターが壁を押しているとします。
壁を押すということは、反作用として壁から同じ力で押し返されてるということなので、この反作用と自重との合力を求めることで、キャラクターが受ける力の向きと大きさが分かります。

壁を押す反作用との合力①

tech_14_03.png

矢印を引いてみると、キャラクターが壁とは反対側の斜め下方向に、力を受けていることが分かります。
また、上記の例ではキャラクターが足を後ろに伸ばし、しっかり力を受け止めて押すことができています。

壁を押す反作用との合力②

tech_14_04.png

壁を押す反作用との合力②では、力の方向に対してキャラクターの足の開きが足りず、壁しっかりと押すには心もとなく感じます。
左足をもっと後ろへ引くことで、ポーズに説得力を出せそうということが分かると思います。

このように、キャラクターに加わる力を考えることでキャラクターがどのような姿勢を取るべきなのかを考えるヒントにすることができます。

まとめ

今回、アニメーション制作に役立つ知識として物理や数学の知識をいくつか紹介しました。
既にご存知だった方も多いかと思いますが、今回初めて知ったという方、経験として知ってはいたが改めて知識として捉えることが出来た方など、本記事が少しでもお役に立っていたら幸いです。

アニメーションに役立てられそうな物理や数学の知識は、調べれば他にもたくさんあります。
まだまだアニメーションに役立つ知識は沢山あります。今回の記事で興味を持った方は、是非調べて試してみてください。

執筆者:本部

アニメーターとしてモノリスソフトへ入社後、現在はテクニカルアーティストを務める。 好きな動物はねこ。

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