100均の商品とカメラで空気の動きを撮影する ~シュリーレン撮影~

INDEX

はじめに

こんにちは。モノリスソフト テクニカルアーティストの森田です。今回はデジタルカメラと100均で売っている商品を使って【動画1】のような肉眼では見えない「熱による空気の動き」を撮影してみます。

【動画1】は指先の体温によって温められた空気の流れを撮影しています。(スローモーション撮影です)

【動画1】手のひらの体温によって温められた空気の流れ

TIPS:

これをシュリーレン撮影と言います。厳密なシュリーレン撮影は、きれいな映像を撮影するためにより複雑な仕組みで撮影しますが今回は100均の材料を使って簡素なシステムで撮影できるようにします。

※注意事項
暗い部屋でカッターナイフを使う関係上、ケガや故障などに十分注意してください。なお、この実験によるカメラの故障や損傷、ケガに関しましては筆者は一切責任を負いません。

用意するもの

  • デジタルカメラ:ある程度のズーム撮影ができるカメラであれば可能です。
  • 手のひらサイズの小さな三脚:カメラ固定用。【写真1】
  • 黒い厚紙:光を遮断する用途です。
  • LEDライト:向きを自由に切り替えられるLEDライトがオススメです。【写真2】
  • 凹面鏡(いわゆる化粧鏡、拡大鏡):なるべく歪みの少なそうなものを選びましょう。鏡が平面鏡と凹面鏡(拡大鏡)の裏表になっている場合は、凹面鏡側を使います。拡大機能のない平面鏡は使えませんので気を付けてください。【写真3】
  • セロハンテープ(マスキングテープ):厚紙の固定用。
  • はさみ:厚紙を切るために使います。
  • コンパス:穴をあけるために使います。
  • カッターナイフ:刃だけ丸ごと取り出してナイフエッジとして使います。
  • 粘土か適当な箱:カッターナイフの刃を地面に垂直につき立てて固定するために使います。
  • それなりに広いスペース:6畳くらいあれば十分です。
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【左:写真1】適当なミニ三脚【中央:写真2】フレキシブルなLEDライト【右:写真3】ただの化粧鏡です

事前準備

1.凹面鏡の焦点距離を測る

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【図1】テスト環境の模式図

凹面鏡のスペックを確認するためのテストをします。

  1. 【図1】のように、①のLEDライトを②の凹面鏡へ向けます。最初はLEDライトと凹面鏡との距離は最初はざっくり2mくらいでよいです。
  2. 次に、凹面鏡に反射した光が③の厚紙に当たるように厚紙の位置を調整します。
  3. そして、厚紙を凹面鏡に近づけたり遠ざけたりして、厚紙に当たった光が一番小さく、はっきりする(ピントが合う)位置を探します。

ピントがあう場所を見つけたら、LEDライト、凹面鏡、厚紙の位置はメモしてあとで再現できるようにしておきます。

TIPS:

この手順でピントが合う位置を見つけたとき、「①LEDライトから②凹面鏡」までと「③厚紙から②凹面鏡」までは同じ距離ではないことが多いです。この2つをだいたい同じ距離にするよう調整しておくと後の工程が楽になるかもしれません。(図1のような形が理想)調整方法は「LEDライトを凹面鏡に近づけたら、今度は同じ分だけ厚紙を凹面鏡から遠ざける」といった流れです。逆もまた同じです。

2.各道具の準備

LEDライトの準備

まず、LEDライトを点光源に変更します。100均のLEDライトは複数の光源が搭載されていたり【写真4】、光源が大きすぎるので厚紙にコンパスなどで小さな穴(ピンホール)を1つあけ、LEDライトの前面に取り付けます。
ピンホールからLEDの強い光が出るように厚紙の位置を調整し、テープで固定します。【写真5】

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左:写真4】LEDライト。光源が三つもあります【右:写真5】ピンホールをあけた厚紙で前面を塞いで、点光源にしたLEDライト

凹面鏡の準備

厚紙を丸く切ってテープで固定し、鏡の周辺をふさぎます。【写真6】

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【写真6】外側は不要なのでふさぎます

TIPS:

これは、100均の拡大鏡は凹面鏡としては精度が低いためです。とくに歪みの大きい周辺部分を隠して、鏡の真ん中あたりだけを使います。

カメラの準備

  1. カメラに小さな三脚を装着します。
  2. 「絞り優先モード」にしてF値は全開(最低値)にします。マニュアルフォーカスモードにして、
  3. 一時的にレンズキャップをかぶせておきます。

カッターナイフの準備

  1. 光を遮るために使う『ナイフエッジ』とよばれる部品を作ります。まずカッターナイフの刃をまるまる一本取り出します。
  2. 適当な箱や粘土などに差すなどして地面に対して垂直に立てた状態で固定できるようにします。

TIPS:

怪我をしないようご注意ください。カッターナイフの刃が危ない場合はカードゲーム用のカードスリーブ、テレホンカード、名刺のような薄くて固い紙などでも代用できます。ナイフエッジの素材や向きによっても撮影結果のクオリティが変わります。

システムの組み立て

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【図2】全体の模式図

各道具の配置

LEDライトと凹面鏡の配置

まず、【図2】のように①LEDライトと②凹面鏡は『事前準備 1.凹面鏡の焦点距離を測る』で決めた位置に配置します。

カメラの配置

  1. ④カメラは最大ズームにします。
  2. 次に【図2】のように『事前準備 1.凹面鏡の焦点距離を測る』で厚紙があった位置から5cm前後凹面鏡から遠ざけた位置(心もち下げた位置)にレンズ先端がくるように配置し、凹面鏡の方向に向けます。
  3. カメラのレンズキャップの中央あたりに光が当たるように向きを調整します。部屋を暗くしておくと、視覚的に位置調整ができるので比較的楽です。

TIPS:

どこに光がとどいているか見にくければ、LEDライトにつけたピンホール厚紙を一時的に外してみるとわかりやすいです。レンズキャップの中央に光を合わせたら再び厚紙を付けるのを忘れずに。

この状態でレンズキャップを外して、写っている画像を確認します。きれいにまるく光る凹面鏡が写っているはずです。画面の中央に来るようにカメラ位置を微調整します。【写真7】

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【写真7】凹面鏡がうまく画面中央に収まっている良い例

カッターナイフの刃の配置

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【図3】ナイフエッジを入れる箇所。A.カメラに近すぎて不正解 B.正解 C.カメラから遠すぎて不正解

③カッターナイフの刃を『事前準備 1.凹面鏡の焦点距離を測る』で厚紙があった位置(【図3】のBの部分)に光を徐々に光を遮るよう少しずつ入れます。カメラから見て左右どちらからいれても良いですが今回は説明のため【図3】でいうと上から(カメラ側から見て左から徐々にふさぐように)いれていきます。

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【写真8】ナイフエッジの成功例

上手くいくと【写真8】のように左右から黒い影が現れて全体的にもやっとした影がでるようになります。

TIPS:

この時、【図3】のC(凹面鏡側)にナイフエッジが入ると【写真9】のように左から影が入ります。この場合はもう少しカメラ側(B側)に寄せることで正解に近づきます。

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【写真9】ナイフエッジがカメラから遠い例

この時、【図3】のA(カメラ側)にナイフエッジが入ると今度は【写真10】のように右から影が入ります。この場合はもう少し凹面鏡側(B側)に寄せることで正解に近づきます。

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【写真10】ナイフエッジがカメラから近い例

撮影する

ここまでくれば後は撮影です。

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【図4】被写体を置く場所。赤丸の部分

【図4】の赤丸の部分に撮影したいものを置くことで、シュリーレン撮影ができます。カメラにスローモーション撮影の機能があればそれを使うことでよりダイナミックな映像が撮れるでしょう。ドライアイス、氷、お湯、人体、蝋燭、エアダスターの噴射など色々なものを撮影してみてください。

(※ただし、二重に映っていますね。)

まとめ

100均に売っているものでも簡単に肉眼では見えない空気の流れを撮影できることがおわかりいただけたでしょうか。
今回はいかに安くシュリーレン撮影するかをテーマとしましたが、例えば被写対象が二重に映らないようにする方法や、より精度を上げた撮影方法、実際の業務に転用できるか?など考えてみると面白いと思います。

また、別パターンとして精度の高い凸レンズがあれば同様の撮影を行うこともできますが、それはまた別の機会に。

執筆者:森田

映像業界を経てモノリスソフトへ入社。 以来、テクニカルアーティストとして主にHoudini関連の業務を担当。 好きなお寿司は鉄火巻き。

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