現実のビデオカメラとゲームエンジンのカメラの話

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はじめに

こんにちは。モノリスソフト テクニカルアーティストの森田です。
近年ゲームエンジンでは現実の業務用ビデオカメラに即したカメラが実装されるようになってきました。
現実のビデオカメラは一眼レフカメラなどの静止画カメラ(スチルカメラ)とルールが違う箇所があるため、初学者向けに情報をまとめました。
今回は明るさにかかわる話です。

明るさ(露出)を調整する

ビデオカメラには「明るさ」を調整するために主に3つの要素があります。
「シャッタースピード」、「ISO」、「絞り」です。
ここでは設定していく順にみていきます。

シャッタースピードについて

シャッタースピードの定義

シャッタースピード(Shutter Speed、シャッター速度)は、シャッターが開いている時間を表しています。例えば、「1/60」は、「1/60秒間シャッターを開いてイメージセンサー(フイルム)に光を取り込む」という意味です。 

  • シャッタースピードが遅ければ光を取り込む時間が長くなるので被写体のブレ(=ブラー)が大きくなり、映像は明るくなります。
  • シャッタースピードが速ければ光を取り込む時間が短くなるので被写体のブレ(=ブラー)が小さくなり、映像は暗くなります。

シャッタースピードの決め方

ビデオカメラの場合、スチルカメラ(一眼レフなどの静止画カメラ)と異なり原則として明るさを調整するときにシャッタースピードを使う事はありません。

ビデオカメラでは「シャッタースピードは "1/最終フレームレートの2倍" にする」ルールで固定されるからです。
例えば、映画などの24FPS向けの撮影ではシャッタースピードは1/48に、ビデオ撮影など60FPS向けの撮影ではシャッタースピードは1/120となります。
このルールは、自然なブラーを生み出せるとされています。

TIPS:

ゲームエンジンによってはブラー強度はシャッタースピードに依存しません。ですが、一つ調整要素が減るので上記のルールに従うのが良いかと思います。
なお、60FPSでシャッタースピード1/120ということはそのフレームの半分の時間、シャッターが開いていることを意味します。

絞りについて

絞りの定義

絞り(F値、F-Stop、Aperture)とはカメラのレンズに組み込まれた光の量を調整する穴のことで、それを調整することで明るさのみならず被写界深度(DOF 、Depth of Field=ボケ具合、ピントの合う範囲)を調整することができます。

  • F値が小さいと被写界深度は浅く(ピントの合う範囲が狭く)なり、映像はより明るくなります。
  • F値が大きいと被写界深度は深く(ピントの合う範囲が広く)なり、映像はより暗くなります。

絞りの決め方

絞りは明るさを調整するためというよりはまず、対象をどのようなボケ具合(演出)で撮影したいかを優先」して数値を決定します。
ニュース番組のように全体にピントがあった映像(パンフォーカス)にしたければF値を大きく、映画作品のような細かい演出描写を行いたければF値を小さめに設定します。

TIPS:

現実のビデオカメラでは、絞りはボケ具合以外にもぼけたハイライトの形状や光芒、フレア、ゴースト、画像全体のシャープさ等様々な光学現象(それらを用いた演出)にも関わってきますので演出意図にそって数値を調整します。
ただゲームエンジンでは、製品によってどこまで再現されているかは異なります。

ISOについて

ISOの定義

ISO(イソ、アイエスオー)は光に対するイメージセンサの感度(=どの程度弱い光まで記録できるか、光の増幅度)を表します。

  • ISOの数値が高いと増幅するためノイズが多くなりますが、映像は明るくなります。
  • ISOの数値が低いとノイズが少なくなりますが、映像は暗くなります。

ISOの決め方

ISOは前述の「シャッタースピードや絞りによって決まった映像の明るさが明るいか、暗いか」によって変更します。
暗い場合はISOを上げます。明るい場合はISOを下げます。

TIPS:

ちなみに、ゲームエンジンでは「ISOを上げることによるノイズ」という弊害はないため、ISOはいくらでも上げることができます。

なお現実のビデオカメラのISOは常用できる範囲が(機種によっても異なりますが)だいたい決まっています。例えば800~1600です。
つまり、あまりにも高い値になっている場合はそもそもワールドが暗すぎる可能性があります。

絞り・シャッタースピード・ISOのチートシート

さて、前述の内容が表のように一枚にまとまったいわゆる「チートシート」というものがあります。インターネット検索でcamera cheat sheet shutter speed ISO apertureなどと検索すると出てきます。

だいたいのチートシートは、縦軸が「絞り、シャッタースピード、ISO」となっており、横軸がそれらの数値でいずれも左側に行くほど暗くなり、右に行くほど明るくなるようになっています。

「絞りを右に一段ずらした場合、ISOを左に一段ずらすと同じ明るさ」になります。
例えば「F22、ISO100、1/60」のとき、もう少しボケが欲しいなどといった理由で「F22→ F16」に明るくした際には「ISO100→ ISO50」に暗くことで同じ明るさでボケ具合だけを調整することができます。

※前述の理由によりビデオカメラの場合はシャッタースピードは動的に変更しませんので無視してよいと思います。

tech_07_01.jpg
『EpicGames "Meerkatデモ" Shot0240』(※1)より「F5.6 ISO200 1/60」
tech_07_02.jpg
『EpicGames "Meerkatデモ" Shot0240』(※1)より「F22 ISO3200 1/60」 

「絞りを4段左」に、代わりに「ISOを右に4段」ずらすことで同じ明るさになります。

それでも明るすぎるときの話

説明したように、「シャッタースピード」、「絞り」を決定して画面が明るすぎるときは、「ISO」を下げます。
しかし、昼間の撮影などISOを常用最低に設定したにもかかわらずそれでも明るすぎる場合はよくあります。
この場合、ビデオカメラでは環境に応じたNDフィルター(減光フィルター)をレンズの前に装着して、光の量を減らして暗くします。

TIPS:

ちなみに、ゲームエンジンではNDフィルターのパラメータはないことが多いので、その代わり「露出補正」など調整するパラメータがあることが多いようです。露出補正の+1、-1というのは前述のチートシートの横方向への一段を意味します。

ゲームエンジンでの露出の決める順番

個人的な、ゲームエンジン上での映像の明るさ決定の流れとしては(すでに適切なライティングしてあるとして)

  1. シャッタースピード:固定値
  2. 絞り:ボケ具合など求める演出面からチートシートの範囲内で決定
  3. ISO:現在の明るさからチートシートの範囲内で決定。
  4. 露出補正:必要であれば。-2~3段程度。現実でのNDフィルターに相当。

この手順が一番楽かとは思います。

参考

(※1)EpicGames "Meerkatデモ"
https://www.unrealengine.com/marketplace/ja/product/meerkat-demo

執筆者:森田

映像業界を経てモノリスソフトへ入社。 以来、テクニカルアーティストとして主にHoudini関連の業務を担当。 好きなお寿司は鉄火巻き。

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