プランナー新人研修の紹介

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はじめに

こんにちは。モノリスソフト プランナーの上地です。
所属プロジェクトの企画班にやって来る新人(新卒採用者と経験の浅いキャリア採用者)向けの研修カリキュラムの作成を担当しました。

この記事では、ゲームプランナーの新人研修を設計するにあたって考えたことを、実際の研修資料の一部を抜粋しながら紹介します。

基本的には若手プランナーやプランナー志望の方、あるいはプランナーの教育に関わる方向けの内容になります。

とはいえ、ゲームデザインの基本的な考え方という部分で、プランナー以外の職種の方にも何らかの学び(あるいは復習)になる内容になっていると思いますので、最後まで読んでいただけると幸いです。

※新人研修の内容は、所属するプロジェクトよって異なります。また、時間と共に研修の内容も変わっていく可能性があることについて、ご了承ください。

新人研修の概要

新人研修は基礎トレーニング、プロジェクトラーニング、OJT(On-the-Job Training)の三段階に分かれています。

  • 基礎トレーニング:プロジェクトによらないプランナーとしての基礎を身に付ける研修
  • プロジェクトラーニング:プロジェクト固有のお作法や、プロジェクトで使用するツールに関する研修
  • OJT:実際のプロジェクト業務を通じて仕事の進め方やスケジュール感などを身に付ける研修

今回の研修カリキュラムの作成では、基礎ラーニングの部分に特に力を入れました。また、プランナーの新人研修は「とりあえず現場に入って、OJT形式でタスクをこなしながら覚える」という現場も多いと思いますので、この記事では基礎トレーニングの内容に焦点を当てて話していきたいと思います。

研修内容の紹介

さっそくですが、実際の研修資料を見ていただきたいと思います。
基礎トレーニングは以下のカリキュラムに分かれています。

  • ゲームデザインの基本(インタラクションとゲームサイクル)
  • 企画書研修
  • 仕様書研修
  • レベルデザイン研修
  • クエスト設計とゲームテキスト研修

今回は「ゲームデザインの基本」の研修資料を見ていただきます。

実際の研修資料:ゲームデザインの基本(インタラクションとゲームサイクル)

※以下の内容は実際の研修資料の抜粋です

ゲームデザインとは面白いゲームを作るためにゲームのシステムやルールを設計することを指します。
言い換えると、面白いゲームを作るためにはどうすればいいかを考えることと言えます。

はじめに、ゲームというエンタメは
映画やアニメといった他のエンタメと何が違うのか考えてみましょう。

答えはたくさん考えられると思いますが
1つの代表的な答えとして

プレイヤーの入力(ボタンを押して、結果が返ってくる)

という要素が挙げられます。

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この「プレイヤーの入力」という要素を軸に考えてみると
ゲームデザインの基本は

プレイヤーに面白く入力してもらう仕組みを用意すること

と言えます。

では、どうすればこれを実現することができるでしょうか。

  • 魅力的な世界観やストーリー
  • 画期的な新システム
  • 気持ち良いアクション
  • 高品質なビジュアルやサウンド

いろいろ考えられると思います。
ゲームを構成する要素はすべて「面白く入力してもらうこと」に繋がります。

そのうえで、入力に対して結果が返ってくるという
ゲームの基本的な構造を考えるためには
インタラクションという概念を意識をする必要があります。

インタラクションとは

インタラクションとは人や物、環境、システムなどが
相互に作用し合うことを言います。

ゲームが提示した情報に対して
プレイヤーが何かを考えて入力して
ゲームがシステムに則って何らかの結果を返す。

これがゲームにおけるインタラクションです。
プレイヤーにインタラクションを楽しんでもらうためには、

  1. 状況を認識して欲求が生まれる(認知)
  2. 結果を予測して試してみたいと思う(計画)
  3. 実際に入力する(実行)
  4. 結果が返ってきて成功か失敗か分かる(フィードバック)

⇒そして再び1に戻る

というサイクルを作る必要があります。tech_30_02_02.png

ゲームは基本的に何らかのゴールを目指してプレイします。
そのため、インタラクションのフィードバックには成功と失敗があります。

フィードバックが失敗だった場合は
もう1回やってみようとリトライのモチベーションが生まれます。tech_30_03_02.png

しかし、フィードバックが成功だった場合は
その時点で満足して、モチベーションが途切れてしまいます。

そこで、成功のフィードバックが別の挑戦に繋がるように設計します。tech_30_04_02.png

そうすることで、モチベーションが自然に持続する仕組みが生まれます。

サイクルのフィードバックを別のサイクルに接続することで
最小限のサイクルの周りに、より大きなサイクルができるのです。

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そうして出来上がる大きなサイクルのことを
ゲームサイクルと呼びます。

ゲームサイクルとは

ゲームサイクルとは、先ほど説明したとおり
ゲーム内の要素やプレイヤーの行動が
次のゲーム要素や次の行動に繋がる欲求を生み
それらがサイクルとなって循環する仕組みのことを指します。

特に探索と挑戦(問題解決)の連鎖は
多くのゲームで核を担う構造とされています。

tech_30_06.png

ゲームは基本的に、こうしたサイクルの複合によって構成されます。

たとえば、RPGであれば

  1. 探索(物語の進行)
  2. 戦闘(敵を倒す)
  3. 成長(レベルを上げて強くなる)
  4. 探索(物語の進行)

...以降繰り返し

のような循環がメインサイクルとなっています。

戦闘の中身はまた別のサイクルになっていて

  1. 味方の行動を選択
  2. 行動の結果が反映される
  3. 敵の行動を受ける
  4. 味方の行動を選択

...以降繰り返し

というように循環しています。

どんなゲームにも必ずなんらかのサイクルが存在し
サイクルの数が多ければ多いほど構造が複雑になりますが
ゲームとしてのボリュームは増します。

さらに、それぞれのサイクルを構成する要素が
互いに相乗効果が生まれるようになっていて
プレイヤーのモチベーションが持続する仕組みが出来ていると
より良いゲームデザインと言えるでしょう。

※実際の研修では、この資料を読んでもらったうえで、既存のゲームのインタラクションやゲームサイクルの構造について分析する課題を実施しました。

カリキュラムの策定にあたって考えたこと

ここからはカリキュラムの策定や研修資料を作成するにあたって、考えたことについて紹介します。

カリキュラムの策定にあたって最初に実施したのは、教えるべき項目について企画班のリーダー陣とすり合わせを行うことです。

その際、CEDEC2022で行われた「楽しい!覚える!使える!〜体系的で実践的なゲームプランナー新人研修を目指して〜」という講演で紹介されていた、プランナーのスキルマップを参考にさせていただきました。

プロジェクトラーニングやOJTの内容についても考慮した結果、以下の項目を基礎トレーニングの内容として扱うことにしました。

  • 体験価値/コンセプト設定
  • 要件定義
  • UI/ユーザービリティ
  • レベルデザイン
  • ナラティブ
  • テキスト
  • プレイヤーエンゲージ
  • ゲームフィール
  • ゲームバランス
  • インタラクティビティ
  • ゲームメカニクス
  • ターゲッティング
  • マーケティング
  • UXデザイン

次に行ったのは教えるべき項目を、研修の形式に落とし込んでいくことです。

今回の研修では、資料を読むだけでなく、課題を実施して、成果物からそれぞれの能力を定量的に評価できることを目指しました。最終的には、スキルマップの要素を以下の5つの研修にまとめました。

研修 課題 扱う項目(スキルマップ参照)
ゲームデザインの基本 既存ゲームの分析 インタラクティビティ、プレイヤーエンゲージ
企画書研修 企画書の作成とプレゼン 体験価値/コンセプト設定、ゲームメカニクス、ターゲッティング、マーケティング、UXデザイン
仕様書研修 仕様書の作成 要件定義、UI/ユーザービリティ
レベルデザイン研修 レベルデザインドキュメントの作成 レベルデザイン、ゲームフィール、ゲームバランス
クエスト設計とゲームテキスト研修 クエスト設計ドキュメントの作成 ナラティブ、テキスト

バトルデザインやプレイヤーアクションなど、カバーできなかった分野もありますが、基礎スキルについては、ひと通りカリキュラムに含めることが出来ました。

研修資料を作成するにあたって考えたこと(ゲームデザインの基本)

この研修では、スキルマップのインタラクションとエンゲージメントについて意識してもらうことを目標としました。

インタラクションとは、プレイヤーとゲームの相互作用のことであり、プレイヤーの入力によってゲームが変化することを意味します。これはゲームの最も基本的な構成要素で、プレイヤーが主体的にいろいろ試してみようと思える構造を設計することこそが、ゲームデザインの第一歩だと考えています。

エンゲージメントとは、ゲームへの愛着や没入の度合いを示す言葉です。身近な言葉で説明すると、ゲームに「ハマったり」「沼ったり」する度合いだと考えてもらうと良いでしょう。プレイヤーのエンゲージメントを高める方法はいろいろありますが、第一にインタラクションへの興味やモチベーションが持続するようなゲームサイクルを設計することが大切だと考えています。

上記を踏まえて、インタラクションとゲームサイクルについて考える研修を設計しました。
課題である既存ゲームの分析を通じて、ゲームの構造や面白さについて意識的に考えてもらうことが狙いです。

まとめ

プランナーの新人研修について、実際の研修資料の内容や、カリキュラムを作成する際に考えたことについて紹介させていただきました。
若手プランナーの方や、プランナー志望の方の学びに繋がる内容になっていれば幸いです。

また、プランナーの教育を担当している方にも、1つの事例として参考にしていただければと思っています。特にプランナーのスキルセットやノウハウについてはまだまだ体系化が進んでいない部分も多いので、こういった情報を発信することで少しずつ業界全体が良い方向に進んでいくことを願っています。

参考

CEDEC 2022 講演スライド「体系的で実践的なゲームプランナー新人研修を目指して」を公開しました、株式会社トイロジック
https://blog.toylogic.co.jp/planner/4232.html

執筆者:上地

モバイルゲーム開発会社、家庭用ゲーム開発会社を経てモノリスソフトへ入社。 以来、プランナーとして様々な業務を担当。 好きな動物はヒツジ。

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