対談
任天堂と歩んだ「ゼルダ」開発の15年をふりかえって

任天堂・岩本氏、モノリスソフト・藤田

長年にわたり「ゼルダの伝説」シリーズ(以下、ゼルダ)の開発に携わってきたモノリスソフト。
その中でも、『ゼルダの伝説 スカイウォードソード※1』、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド※2』、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム※3』の部分受託開発について、任天堂・岩本氏とモノリスソフト・藤田に、同シリーズにおける任天堂とモノリスソフトの関係性、開発チームの変化や今後の展望などを語ってもらいました。

  • ※1 以下 『スカイウォードソード』
  • ※2 以下 『ブレス オブ ザ ワイルド』
  • ※3 以下 『ティアーズ オブ ザ キングダム』

期待と不安とともにスタートした
任天堂との「ゼルダ」開発

はじめに、お二人のプロフィールをお聞かせください。

藤田 モノリスソフトの藤田です。
キャリアのほとんどでアニメーションを担当してきました。
ゼルダの開発には『スカイウォードソード』から参加しています。
『ブレス オブ ザ ワイルド』では、
モノリスソフト側のアニメーションのリードを務め、
『ティアーズ オブ ザ キングダム』では、
モノリスソフト側のディレクターとしてチームマネジメントを担当しました。

現在はプロデューサーとしてチームを統括する立場です。

岩本 任天堂の岩本です。これまで20年以上、「ゼルダ」に携わってきました。
『ゼルダの伝説 時のオカリナ』から開発に参加し、
ニンテンドーDSで発売された『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』と
『ゼルダの伝説 大地の汽笛』の2タイトルではディレクターを務め、
『スカイウォードソード』では、プランナーとして参加していました。

現在はゼルダシリーズすべての統括マネージャーを担当しており、
モノリスソフトの非常勤取締役も兼任しています。

モノリスソフトはいつ頃から「ゼルダ」の開発に携わっているのでしょうか。

藤田 最初に携わったのは『スカイウォードソード』で、
モノリスソフトからは、デザイナーとプランナーが参加しました。
2010年の夏くらいからですよね。

岩本 そうですね。
特徴のあるアートスタイルでしたし、作業量も多かったので、
任天堂のスタッフだけで制作すると、とんでもなく時間が掛かることが分かりまして。

モノリスソフトなら、開発実績も十分でしたし、
任天堂グループの一員ということもあって、
グループ外の会社には伝えられないことなど、
いろいろオープンに相談できるだろうという理由でお願いしたのですが、
「ゼルダ」としては、デザインと企画を社外に委託するのは初めてでしたので、
期待と不安が入り混じる状況でした。

藤田 期待と不安、は私たちも同じでしたね。
存在感の大きなタイトルに携われる喜びがある一方で、
任天堂のゲームの作り方が全く想像できていなかったので、
興味津々でありつつ、「自分たちの仕事は通用するんだろうか」という
不安もありました。

岩本 そうした想いから、
とにかく密にコミュニケーションを取る必要があると感じていたので、
頻繁にテレビ会議をしながら進めていましたね。

藤田 当時のモノリスソフトは、まだテレビ会議の設備が充実していなくて、
電話も頻繁に使っていました。
セクションに1台だけある電話をほかの案件でも使い回していたので、
誰かが通話していると「終わったら替わって!」と順番待ちをしたり(笑)。

岩本 そうだったんですね(笑)。

藤田 何とかコミュニケーションを濃くしたい、という気持ちは、私たちも同じでした。
距離感が縮まるのに時間は掛からなかった気がします。
開発終盤にはテレビ会議では物足りなくなって、
任天堂に席を作ってもらったんですよね。

岩本 はい。1か月ぐらい京都に来ていただきましたね。
おかげさまで、みっちりとコミュニケーションを取りながら
終盤の制作を進めることができました。

初めて一緒に仕事をしてみて、どのような印象でしたか。

藤田 モノリスソフトとしては、『スカイウォードソード』を経て、
任天堂と一緒に仕事をすることに自信を持てたと思います。

岩本 任天堂としても、十分な手応えがありました。
二社が協力することによって、より大きな力をこの作品に注ぐことができたと思います。

モノリスソフトも全力投入で作り切った
『ブレス オブ ザ ワイルド』

『ブレス オブ ザ ワイルド』の開発は、どのようにスタートしたのでしょう。

藤田 モノリスソフトが参加したのは、
世の中に初めて『ブレス オブ ザ ワイルド』の映像が公開される直前でした。
既にゲームデザインやアートスタイルの方向性は定まっていましたね。

岩本 『スカイウォードソード』より開発規模が大きくなることは予想できていたので、
『ブレス オブ ザ ワイルド』では、開発の序盤からモノリスソフトの
デザイナーとプランナーに参加してもらいました。

藤田 モノリスソフトの方が開発人数が多くなって、関わり方も変わりましたね。
『スカイウォードソード』では任天堂で練られたゲームデザインや仕様に沿って
モノリスソフトがデータを作る、という関係性が主でしたが、
『ブレス オブ ザ ワイルド』では、
「一緒に考え、一緒に作る」ということが多くなりました。

岩本 広大なフィールドを作り込む必要があったので、
モノリスソフトのプランナーにもレベルデザインや、
遊びのアイデアを一緒に考えるところからお願いすることが増えました。

藤田 私が担当していたアニメーションでいうと、
『スカイウォードソード』では、データを作るところまでが私たちの担当で、
それをゲームに組み込んで面白さを磨くところは任天堂側で行われていましたが、
『ブレス オブ ザ ワイルド』では、ゲームへの組み込み方も一緒に考えるようになり、
遊んだ時の手触りの調整まで一緒にやらせてもらいました。

岩本 担当する範囲が広がっただけでなく、関わり方がグッと深くなりましたよね。

関わり方が深くなることで、『スカイウォードソード』の開発とは違う難しさはあったでしょうか。

藤田 任天堂とモノリスソフトで開発スタイルに違いがあったので、
当初はやや戸惑いがありました。

モノリスソフトは職種を軸にチームを構成していて、それぞれの職種が
大人数を長期的・組織的に動かして物量をこなすことを得意としています。

岩本 一方で任天堂は、プランナー、デザイナー、プログラマーが職種に関係無く
意見を交わしながら、試行錯誤を繰り返して遊びを磨いていくスタイルです。

藤田 試行錯誤するスピードが速く、回数が多いことに驚きました。
大人数で物量をこなすには、チームの構造や指示系統を堅く作りたくなるのですが、
そうすると、全員で意見を交わしたり、
フットワーク軽く作り変えていくことの難易度は上がります。

任天堂とモノリスソフト、お互いの得意なスタイルをいかに掛け合わせるかが、
開発を通じてのテーマだったように思います。

岩本 『ブレス オブ ザ ワイルド』は、我々も経験したことのない作業量でしたが、
得意なスタイルの違う両社の連携による相乗効果があって、
最後までクオリティも物量も諦めることなく乗り切ることができたと思います。

藤田 そうですね。「最後まで」という点も、関わり方が深くなった部分だと思います。
モノリスソフトでは、開発が終盤になると、区切りが付いたスタッフから
次のプロジェクトに異動することが珍しくなく、
『スカイウォードソード』もそうだったのですが、
『ブレス オブ ザ ワイルド』では全員揃ってデバッグまで全力投入しました。

岩本 完成が近付くにつれ、チームの一体感が加速度的に増していくのを感じました。
終わった時には、みんな、やり切った顔をしていましたね。

『ブレス オブ ザ ワイルド』での連携に手応えを感じた結果、
ダウンロードコンテンツ(以下、DLC)も、お願いすることになりました。

そして『ティアーズ オブ ザ キングダム』の開発に続いていったのですね。

岩本 はい。
DLCの開発に携わったほとんどの人に、そのまま最初から参加していただけたため、
それまでに培った両者の関係性を最初から活かすことができました。

藤田 DLCからはモノリスソフトのプログラマーも加わっていたので、
『ティアーズ オブ ザ キングダム』には、
プランナー、デザイナー、プログラマーが揃って
開発の最初から参加することができました。

岩本 開発初期のアイデア出しから実際のゲームに落とし込むまで、
モノリスソフトでも一貫して行える体制になったので、
それまで以上にクリエイティブな部分に関わってもらえる期待がありました。

藤田 私たちも、「これでモノリスソフトの中でも試行錯誤しながら
アイデアを形にすることができるぞ」と意気込んでいましたが・・・大変でした(笑)。

岩本 『ブレス オブ ザ ワイルド』と同じ世界ではあるものの、
遊びやアクションは新しくなりましたし、
フィールドも空や地底に広がったので・・・大変でしたね(笑)。

藤田 新しい遊びやアクションを考えるところから始まるとは、
正直なところ、想像していなかったです(笑)。

『ブレス オブ ザ ワイルド』までの経験と、3職種がそろった体制をもって挑んでも大変だったのですね。

『ティアーズ オブ ザ キングダム』
を経て
モノリスソフトが得たもの

『ティアーズ オブ ザ キングダム』の開発では、モノリスソフトの関わり方はどのように始まったのでしょうか。

藤田 遊びやデザインのアイデア出しから開発が始まったのですが、
それまでと違う体制でよりクリエイティブな部分へ関わっていくには、
モノリスソフト側の開発の土台を強固にする必要があると感じていました。

前作のチームを引き継いでいたとはいえ、
新規スタッフをどんどん迎え入れていたこともあり、
まずは、チーム全体で前作の考え方や作り方への理解を
さらに深めようと考えました。

岩本 私たちも続編を作る上での難しさを感じていたので、
新しい遊びを一緒に考える中で、
前作での経験やそこで培われた考え方を、改めて伝えることを意識していました。

最初からモノリスソフトが大所帯になっていたので、
この経験や考え方をおつたえするため、
どのセクションでも任天堂がモノリスソフトを訪問する機会が自然と増えましたね。

藤田 開発初期は、任天堂のみなさんには本当に頻繁に来てもらっていました。
新しく参加したスタッフとフランクに会話する場面も見られ、
そのコミュニケーションの距離感の近さにみんな驚いていました。

岩本 より深く開発に関わってもらうつもりでしたので、
チームの土台作りから一緒にやっていこう、という意識があったと思います。

開発初期に考え方や作り方への理解を深めたことで、
その後の様々な相談がスムーズになったのではないかと思います。

藤田 もう一つ、開発初期から力を入れたのは、社内セクション間の連携の仕方です。

意気込んでいた試行錯誤も、最初の頃は上手くリズムに乗れないことがありました。
作って試してみる前に考えすぎてしまったり、逆に作りすぎてしまったり、
やるべきことを絞り込むのに時間が掛かったり・・・

岩本 テンポ良く、効果的に試行錯誤を回していくには、
作業担当者間でのコミュニケーションも大事ですが、
周囲との連携も大事なんですよね。

自分の担当範囲の外で周りのみんなが何をやっているのかを知ることも必要ですし、
逆に、自分達がやっていることを周りに発信する意識も欠かせません。

藤田 直接担当していない範囲にもお互いに関心を持つことで、
「こちらでも似たような課題があった」
「こちらではこういう進め方をしている」といった
情報交換があちらこちらで自然と発生するのは、
「ゼルダ」シリーズの開発の特徴だと思います。

周りとの連携を通じて、その時に本当に見極めるべきことが絞れたり、
効率の良い解決方法が見出せたりする光景が常に見られました。

試行錯誤を回していくコツが掴めるまでは、
そういった連携のノウハウも任天堂のみなさんに相談させてもらいましたね。

岩本 「横軸連携」という言葉がキーワードになりましたね。

藤田 「横軸連携」は、最初から最後まで、
開発を通しての大きなテーマになりましたね。

アイデア出しから完成まで一貫して携わる部分が増えることにより、
開発が進むほどに、任天堂のサウンドチームや開発環境の担当者、テスターの方達・・・
といった様々なセクションや部門の方との責任のあるやり取りが増えましたが、
開発序盤にチームの土台作りをしっかりできていたおかげで、
中盤以降の繁忙期も様々な方と連携しながら乗り越えることができたと思います。

岩本 遊びが新しくなり、フィールドも広がったことで、作業量も膨大になる中
それまで以上に責任ある範囲を担当してもらったので、
新しい遊びを作る難しさや、作り切るプレッシャーもあったかと思います。

藤田 はい。終始、緊張感はあったと思います。

ただ、任天堂の方と定期的に意見交換や情報共有を行う中で、
ゼルダ開発の考え方やノウハウがモノリス内にも共有されていたので、
立ち止まったり、迷走することは無かったです。

アイデアを出すところから、試行錯誤を重ねて製品として完成するまで、
最初から最後まで一緒に走り切った経験は、スタッフにとっても
チームにとっても大きな財産になっています。

『スカイウォードソード』から『ティアーズ オブ ザ キングダム』に至るまで、より深く開発に関わっていったことがよくわかりました。長年「ゼルダ」の開発に携わっていく中で、チームとして成長を感じるところはあるでしょうか。

藤田 大人数で組織的に動きながらも、こだわるところには徹底的にこだわる、
柔軟な開発ができるようになってきたと思います。
任天堂のスタイルが馴染んできて、モノリスソフトの得意なことと
良い塩梅で混ざりつつあると感じています。

岩本 その結果、タイトルを経るごとに開発のクリエイティブな部分への関わりが増していて、頼もしく感じています。

藤田 とはいえ、チームとしてはまだまだ発展途上で、
「全員でゲームを作りながら、全員でチームも作っている」という感覚です。

「これがやりたいです」「これがいいと思います」と、
こちらから積極的に提案する場面をもっと増やしていきたいですね。
それができる関係性や制作環境はあると思いますので。

岩本 「ここからここまで、全部モノリスソフトの方でやっておきます」というくらいの
意気込みなどは大歓迎ですね。

最後に、これからの展望を教えてください。

藤田 「ゼルダ」の開発には毎回、新しいチャレンジがありますので、
チームとしてもそれに対応できる柔軟性が大事だと思っています。
いろんなスキルや経験値の人達が集まって、コミュニケーションを取りながら、
常にベストな形を求めて変化し続けられる、そんなチームにしていきたいです。

そして、もっともっと、いろんな仕事を担えるようになりたいですね。

岩本 モノリスソフトには、「ゼルダ」を一から制作していく強力なパートナーとして、
どんどん中核の部分を担ってもらいたいです。

今まで一緒に仕事をする中で培ったノウハウをもとに
モノリスソフト全体のチーム力をさらに引き上げて、
今後もユニークなシリーズタイトルを一緒に作っていきましょう。

本日はどうもありがとうございました。

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